名古屋港は世界でも有数のダイナミックな貿易拠点ですが、現在の港の機能は南へと移動し、かつての名古屋港とよばれた場所は、そこに住む人や働く人たちも減少し、新たな転換が迫られる時代になってきました。近年では、地下鉄も整備され、水族館、ショッピングモール、アートスペースができ、街の賑わいづくりをしてきました。その後、実験的なプロジェクトを行ってきた巨大倉庫がイタリア村として開園する(2005年開園、2008年に閉鎖)など、今後の方向性を探るプロジェクトが続いています。今回のワークショップでは、こうした状況を踏まえ、この巨大倉庫を中心に、芸術、デザイン、観光等のコミュニティ・ターミナルの構想を立ち上げてみたいと思います。名古屋港の歴史的な変遷を学習しながら、現在の港周辺の住労環境・空間をフィールドワークしていきます。そして、芸術・デザインを中心にしながらも、経済的な視座を見失うことなく、倉庫の活用を中心とした具体的な提案を行いたいと思います。さらにこのプロジェクトが、今年成功した「あいちトリエンナーレ」をリレーした形で、中部地方の文化全体の拡がりとして、新しい発信力を持つことができればと考えています。
始動!アートポートターミナル名古屋
貿易港としての第一線の役割を終えた名古屋港ガーデンふ頭地区は、その後観光地化が進められたが、そこにあるのは水族館・観覧車・ショッピング施設など、そこに行くだけで完結してしまうような施設ばかりではないだろうか?以前存在していたアートポートという施設は、古い倉庫を利用した、名古屋では数少ないアーティストの活動の場であった。しかし、短い活動期間の中、地元の人々との交流がなされぬまま消えてゆき、その後できたイタリア村も結局は倒産してしまった。
そこで、これらの変遷や経営的な視点、地域住民との関係、市民への開き方などを踏まえながら、アートやデザインの複合施設であるアートセンターの設立を提案したい。産業遺跡のシンボルとしての巨大倉庫を、クリエイティブなコミュニティ広場へと変換させるのがその狙いである。
この施設には、アートやデザインにまつわる様々な施設(ギャラリー・カフェスペース・図書館・ショップ・スクールなど)が作られる予定である。スタジオやエキシビション会場の提供だけではなく、クリエイターの作品をまとめたアートマップの作成、まちを見て回るためのレンタル自転車の設置も考えている。また、夜間スクールを開講し、アーティストと生徒の間の交流を生み出すことも企画している。そうした活動は、滞在者の日々の消費活動を促すと同時に、入場料や授業料など自主運営のための資金調達にもなる。
このプロジェクトの最大のポイントは、アーティスト・デザイナー・建築家といったクリエイターが、そこにオフィスやスタジオを構えて生活をする点である。多くのコネクションを持つ彼らがまちに住み、創作活動をすることで、たくさんの人々が彼らと交流し、同時に彼らのアート作品がまちを彩る。作品を見に多くの人々が訪れ、交流のかけ算が起こり、名古屋港はやがて賑わいの絶えない元気なまちとなるだろう。
近年ようやく市民権を得てきたといえるアートは、人と人とのつながりにおいて、とても大きな可能性を秘めているのである。
池田 修
BankART1929代表・PHスタジオ代表
1957年大阪生まれ。Bゼミスクール卒業後、都市に棲むことをテーマに美術と建築を横断するチームPHスタジオを発足。展覧会や美術プロジェクト、建築設計等、多岐にわたる活動を行っている。代表作は広島のダム湖に沈む町でのプロジェクト「船、山にのぼる」。また、代官山ヒルサイドギャラリーディレクター(1986〜1991)、渋谷のボッシュオートモービルの企画委員(1992〜1994)など、コーディネータとしての実践も長い。1994年から名古屋芸術大学(院)非常勤講師の他、他大学、他都市での講演も数多く行っている。2004年からBankARTの立ち上げと企画運営に携わり、今日に至る。2006年度、文化庁の「文化財建造物の保存・活用の推進(略称)」委員。また横浜市文化財施設指定管理者外部評価委員(2006〜)、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。編著にはBankARTの数多くの刊行物の編集を手がける他、PHスタジオとしての活動をまとめた「PHスタジオ1984-2002」等がある。
武藤 勇
N-mark
1993年名古屋芸術大学卒業。1998年CCA北九州アーティストリサーチコースを終了後、アートスペースN-mark、KIGUTSUを運営。1999年名古屋港倉庫の実験的活用「artport '99-given」に参加。2001年名古屋港のアートの賑わいを地域に展開するプロジェクト、@port を企画。2000年N-mark企画どこへでも出かけて公開ミーティングをする「オープンミーティング」をはじめ、2003年北海道から沖縄まで全国を縦断した「ミーティングキャラバン」を開催。2004年アート巡回プロジェクト「カフェライン」を実施。2004〜05年アサヒアートフェスティバル実行委員として参加。2005年アートアーカイブを軸にAANを組織し、2006年横浜ZAIM別館に全国55組のアート団体を集めた「SHOWCASE」 を実施。2009年に名古屋港の商店や空き地、舟だまりなどを舞台とした「名港ミュージアムタウン」を企画。2010年情報科学芸術大学院大学(IAMAS)卒業後、あいちトリエンナーレサポーターズクラブ事務局として市民サポーターが主体的な取り組みを行える「火曜日活動」を企画、担当。
金 志娥
名古屋造形大学大学院
木村 理美
愛知県立芸術大学大学院
ロバート・ムーア
デザイナー
柴崎 里奈
名古屋芸術大学
田中 瑞穂
あいちトリエンナーレ
サポーターズクラブ
山崎 啓道
名城大学大学院
矢野 冬馬
企業内デザイナー