名古屋的な農業の問題を魅力的に解決する、都市的・建築的視点からの提案は可能であろうか。中心部から10数キロ離れると、広がり始める放置された農地は、年々増えるばかり。しかし、名古屋エリアを俯瞰的に見てみると、この都市が持つコンパクトさから新しい可能性が見えてくる。“名古屋の農業”を包括的に考え、サスティナブルかつ名古屋的一般理解を持ちうる、実現可能なプロジェクトを共に考えたい。
あぐりんくツアー
2日間のフィールドワークで、名古屋市内の10以上の農業関連施設を訪れた。そして、名古屋は魅力的な農業の要素(地場産の農作物・それらを作る人々や場所・それらを紹介する施設)に恵まれていることを知った。しかし、農業をめぐる人・場所・情報がすべてバラバラに点在しており、関係が希薄な非連続となっていることに驚いた。
一方、名古屋はコンパクトな都市でもある。中心部から車や電車で30分程度移動するだけで、農地や農業施設へアクセスが可能なのである。
ここに非連続を連続させる可能性を見出し、コミュニケーション型農業ツアー、名付けて「あぐりんくツアー」を提案する。
これは、市内の農業に関する場所をめぐることで、農業について考えるツアーである。時間をかけて遠くに出かけ、土に触れたり専門家のレクチャーを受けたりするといった従来の農業系ツアーとは異なるアプローチである。日常と乖離しない距離で、観光的な楽しさを体験するとともに、これまでとは異なる農業や名古屋のイメージを考え、発見するツアーなのである。
単純に稼働中の農業施設を紹介するだけではなく、農業をどのように都市の開発・発展に結びつけることができるかといった可能性や、跡継ぎ問題など、現状の問題点の提示と解決への糸口もツアーの中で提案する。
また、各ツアー参加者が思いついたアイデアを、ウェブサイトに記録し共有するというシステムも考えた。多くの人々の手によって、そのアイデアが育てられ、ツアーのルートをどんどん増やしてゆく仕組みである。こうした参加者の小さなクリエイティビティを蓄積・発信することも、「あぐりんくツアー」の大きな特徴である。このツアーを多くの人が楽しむこと、それ自体が外来者を巻きこんで、名古屋の農業を多角的に見つめ直すことになる。
「あぐりんくツアー」は、農業・クリエイティブ・コミュニケーションがコンパクトに凝縮されている名古屋だからこそ可能な、新しい名物となるだろう。
MOSAKI : 大西 正紀
編集者/建築家
1977年、大阪府生まれ。2001年、日本大学理工学部建築学科卒業。2003年、日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2003-2004年、Ushida Findlay Architects (UK)勤務後、2004年、MOSAKI共同設立。MOSAKIでは編集及びデザインを担当。2004-2007年、日本大学理工学部建築学科助手。2007年- 、日本大学理工学部建築学科NU建築フォーラム委員。2007-2009年、日本建築学会編集委員会委員。
MOSAKI : 田中 元子
ライター/クリエイティブファシリテーター
1975年、茨城県生まれ。1999年、同潤会青山アパートメント再生プロジェクト「DO+」主宰。2004年、MOSAKI共同設立。執筆及びディレクションを中心に活動。2007-2008年、co-labクリエイティブファシリテーター。2009年- 日本建築学会文化事業委員。主な連載に『MOSAKIのイベント巡礼』(2005-2008|日経アーキテクチュア)、『妻・娘から見た建築家の実験住宅』(2009-|ミセス・文化出版局)など。
谷田 真
名城大学 理工学部建築学科 准教授・博士(工学)
1971年名古屋市生まれ。1995年名城大学建築学科卒業。1997年名古屋大学大学院修士課程修了、仙田満+㈱環境デザイン研究所入所。2003年名古屋大学大学院博士課程満期退学。2008年University of East London在外研究員。愛知県アート・まちなか活性化事業(2007)、Tokyo Designers Week(2007)、広島市現代美術館「ゲンビどこでも企画公募」(2009)、Nagoya Design Week(2009、2010)など、建築分野のみならず学際的領域の取り組みにも積極的に参加。人間と構築環境の相互関係に関心を持ち、学生との時間、家族との時間を大切に日々活動中。
秋山 洋亮
名古屋大学大学院
久野 愛子
名古屋学芸大学
林 阿連
台南科技大学
森田 直
フリーランスデザイナー
塚 みかり
名古屋芸術大学
厳 丹
名古屋工業大学