クリエイティブ・デザインシティなごや2009

未来スコープ・大きく、小さく見つめるナゴヤのコレカラ
国際デザインフォーラム
ユネスコ

ドヨン・リー

ドヨン・リー
ユネスコ(国連教育科学文化機関) 
文化部門 文化的表現・創造産業部 創造都市ネットワーク・芸術教育プログラムコーディネーター

ユネスコのクリエイティブ・シティズ・ネットワークが、他のネットワークと異なる点は、都市の捉え方である。都市は、地域の文化の特性や、国際的な意味を考えるときに最適なサイズであり、また、各地域のポテンシャルを十分に発揮することができるサイズでもある。ユネスコでは、都市を、多様な創造性を発揮するクラスターであると捉えて、このネットワークを構築している。また、このネットワークは、既存のネットワークをさらにネットワーク化していく試みでもある。すでにある仕組みを利用し、官民が協力し合い、クリエイティブなコミュニティとは何かを考え、実際に行われていることを人々に理解してもらい、つなげていこうという試みである。また、ユネスコでは、さらにネットワークを多岐化させ、サブネットワークを作っていくことも考えている。そのためには、シナジー・オブ・シナジーズすなわち都市の多様性が非常に大切で、それはこのネットワークの本質でもある。しかし、このネットワークはまだ試行段階にあり、課題も抱えている。加盟都市が増えれば、それぞれが参加意識を高めて、それを維持する努力が必要となる。また、都市間のバランスもとらないといけない。今後の方向性としては、継続的に地域の持つ潜在的な文化力を高め、多様性を維持しながら、異なる学問分野が互いにつなぎ合って、協力関係を築く、このように発展することを期待している。

ブエノスアイレス

マルコス・アマデオ

マルコス・アマデオ
ブエノスアイレス市経済発展局 創造産業・外国貿易統括部 副部長

都市概要

ブエノスアイレスは、南アメリカの南部に位置する国、アルゼンチンの首都で、タンゴ、サッカーで有名な都市である。デザインにも長い伝統があり、この30年間特に力を入れてきた。デザインを中心にクリエイティブ産業を促進し、製造・生産産業を活性化することによって、市民の生活の質(QOL)を上げ、国際的なプレゼンスを高めていくことを目標に、デザイン都市となった。2001年に政府がメトロポリタン・デザインセンターを設立し、大学教育、産業育成だけではなく、熱帯雨林の保全に対するイニシアチブなど、環境問題にも力を入れている。

主なデザインプロジェクト

メトロポリタン・デザインセンターでは、アニメ、ファッション、グラフィックデザイン、音楽、映画など、様々な分野のクリエイティブ産業を支援している。ファッションにおいては、地域のデザイナーを育成し、同時に国際的なフェアにも積極的に参加している。また、デザインにサスティナビリティを加える、企業責任を教育する、国際性を高めるという点を重視して、デザイン月間やデザインフェスティバルなど、年間100以上のイベントが行われている。デザインを地域開発のためのツールとして用いている点も特徴的である。例えば、南部の開発が不十分な地域を指定地区としてデザイン企業の誘致などを行う、デザイン地域プロジェクトにも力を入れている。ブエノスアイレスでは、産官学が連携して中期的、長期的な計画を立て、共に活動している。

ベルリン

イェルク・ズアマン

イェルク・ズアマン
DMYベルリン社 CEO

都市概要

ドイツの首都ベルリンは40年間にわたって東西に分断されていたため、2種類のデザインが共存している。1つは欧米の影響を受けたもの、もう1つは東ヨーロッパの影響を受けたものである。東西ベルリンの統一の後は、クリエイティビティを切り口に、工場跡地などを文化のプラットフォームとして使いながら、都市の再構築が行われてきた。その結果、デザイン関連の強力なネットワークが確立された。また、生活にかかるコストも低いため、才能のある人々が世界中から集まり、自由に活動することが可能な都市となった。

主なデザインプロジェクト

ベルリン音楽委員会、「インターナショナル・デザイン・フェスティバル」、デザイン・ネットワーク・クリエイト・ベルリン」、「ファッション・ラング・テーブル」など、ベルリンでは市政府の支援を得たプロジェクトが多い。ネットワークやプラットフォームも充実し、国際的なマーケット活動のバックアップも十分に期待できる。ベルリン市全体を巻き込むフェスティバル「グローバル・クリエイト・プラットフォーム」は、50以上のギャラリー、展示場、クラブなどを会場に、30ヶ国・550にのぼるデザイナーが活動する場となっている。その他にも数えきれないほどの多様なクリエイティブ・プロジェクトが行われているが、ブースを使わず、大きなスペースを活かした実験的な試みが行われている。

モントリオール

マリー ジョゼ・ラクロワ

マリー ジョゼ・ラクロワ
モントリオール市 デザイン・コミッショナー、都市経済計画部デザイン担当局長

都市概要

モントリオールは、カナダのケベック州にある都市で、250年以上の歴史がある。フランス語圏の都市としてはパリに次ぐ規模で、世界的に名高いシルク・ドゥ・ソレイユ発祥の地でもある。川の合流点にある川中島に位置し、気温は-37〜+37度と幅広く、この大きな気温の変化が都市のデザインに影響を与えている。また、アメリカ大陸で唯一のフランス語圏の都市であり、50%以上がバイリンガルで、総人口の3分の1が移民である。この点もまた大きな影響をデザインに与えている。

主なデザインプロジェクト

1997年にデザイン委員会が立ち上がったが、このような部局が市政府の中にあるのは、北米の中ではモントリオールだけである。現在は委員会から局へ格上げされ、モントリオールをデザイン都市として成長させ、同時に世界に向けてプロモートしていくことを目標に、国際コンペティションや専門家のためのワークショップなどを開催するなど様々な活動が行われている。また、開催されるイベントやプロジェクトでは、デザイナーが深く参画できるように、市政府がより良いクライアントとなってデザイン関連の人材の活動の場を創出するとともに、人材発掘、育成にも力を注いでいこうとしている。

神戸

井上隆文

井上隆文
神戸市企画調整室参与(デザイン都市推進担当局長)

都市概要

神戸は、六甲山と神戸港に挟まれて市街地が広がり、一方で北部には豊かな田園風景が残っている。自然もデザインの一部として大事に守っている都市である。明治の開港以来、海外交流が盛んに行われてきたため、文化の多様性の中でまちなみを築き上げてきたが、1995年1月17日、阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた。約15年にわたり、復旧・復興に全力を傾けてきたが、次の新たな創造都市戦略として「デザイン都市・神戸」を推進している。

主なデザインプロジェクト

神戸の3つの個性として、「まち」、「くらし」、「ものづくり」が挙げられるが、デザインプロジェクトもこの個性を活かす形で展開されている。「まち」では、市街地の建物の高層化による景観の悪化を防ぐため、山の稜線を基準線とする誘導基準づくりを進めている。「くらし」では、市民にデザインの感性を養ってほしいという思いから、現代芸術を中心とした総合芸術祭である「神戸ビエンナーレ」を開催している。港を活かしたコンテナアートなど、独特のデザインが展開されている。「ものづくり」では、「デザイン・ルネサンス神戸PROJECT」など、中小企業とデザイナーを結びつける機会づくりを行っている。また、2012年にはデザインの発信拠点として、旧神戸生糸検査所(1927年開所の建物)を再利用してデザインセンターを立ち上げる予定である。

深圳

王 小明

王 小明
深圳創造文化センター センター長

都市概要

深圳は、中華人民共和国の広東省に位置する比較的若い都市で、香港に隣接し、経済特区に指定されている。移民都市でありながら、教育レベルの高さを誇っており、IT、金融、物流、文化の4つを競争力の柱として打ち立てている。モダンデザインについての歴史は浅いが、目覚ましい経済成長とデザインの戦略的な活用により、中国のモダンデザインの聖地と言われている。

主なデザインプロジェクト

経済成長と持続可能性の両立、そしてその維持に努め、「古い物から新しい物への転換」をキーワードとしたプロジェクトが、ここ数年間続けられている。「オクトーロフト」やティアンミン工場団地の例に見られるように、古い工場などの大きな建物をデザイン・プラットフォームとして再利用するという試みも数多く見られる。元は伝統的な印刷産業の拠点だった場所も、現在では高いレベルのアートの拠点となっている。また、国家規模のアニメーションの拠点である深圳・ナショナル・カートゥン&アニメーション・インダストリー・ベースや、アニメ、ビデオゲーム、映画関係の企業のための、南山サイバー・カルチャー・インダストリー・ベースなど、デザイン企業の誘致も積極的に行われている。2010年には、ニューテクノロジー、ニューメディア、クリエイティブ・シティ・シナジーをテーマとする、クリエイティブ・シティ国際会議の開催が予定されている。

名古屋

伊藤恭行

伊藤恭行
名古屋市立大学 芸術工学部准教授

都市概要

名古屋市は名古屋城築城とともに400年前に作られた都市である。築城にあたり多くの技術者が集められ、今日のものづくり工業の起源と言われているような、からくり人形など、先進的なデザインの技術を生み出してきた。このような伝統的なものづくりの流れが、今日ではデザイン産業に直結している。また、50以上の芸術系大学や専門学校と15以上のデザイン団体があり、かなり高密度なデザインネットワークが構築されている。

主なデザインプロジェクト

1989年にデザイン都市宣言をし、3大国際デザイン会議(ICSID, IFI, Icograda)や、世界デザイン博覧会などを開催してきている。(1992年に設立、)1996年に開館した国際デザインセンターは、このような活動の中心であり、毎年開催されている国際若手デザイナーワークショップや、隔年開催の国際デザインコンペティション「名古屋デザインDO!」など、グローバルで幅広いデザイン事業を手がけている。また、デザイン都市認定後、名古屋では「原石を磨く」「自然環境の保全」「多様なネットワーク」をテーマに掲げ、活動。2010年は名古屋開府400年を記念するフェスティバルや、現代美術の国際展「あいちトリエンナーレ」、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催が予定されている。

パネルディスカッション

パネルディスカッション

モデレーター(池側隆之)

ネットワーク化することで、画一化が懸案される、あるいは、地域性が損なわれるのではないか?といった議論もありますが、ネットワークによって何が生まれ、何が次のステージとして待っているのかということについて、各都市のご意見をいただきたいと思います。

ブエノスアイレス(マルコス・アマデオ)

ネットワークの重要性はそのコンテンツにあり、それによって、私たちの活動が生まれるという部分があると思います。現在、これからの計画のまさにスタート地点に立っていると思います。さらに議論を深め、ある意味で競争というものも意義があるかもしれません。こういったネットワークにより、官民ともに具体的な活動をしていくことが重要であると理解し、そのコンテンツの大切さを知るということが必要だと思います。それによって、持続的な開発ができるのだと思います。

ベルリン(イェルク・ズアマン)

ネットワークというのは、全ての都市が加わっていく、そして楽しんでいくべきものだと思います。コンテンツについて付け加えるならば、まず現実的なものでないといけません。そして、知識を共有するツールである必要があると思います。それぞれがデザインを持ち寄り、市場を作り、機会を与え、雇用を促進し、デザイナーたちが食べていけるという状況を作ることが大切です。ネットワークがあると、どうやって市場化していくかというアイデアを共有することができ、国際市場にも目を向けて、さらに活性化をはかることが可能になると思います。

モントリオール(マリージョゼ・ラクロワ)

一番大きな問題は、若い才能のある方々と、その才能をどのように都市の中で活かしていくのかという点です。そのために、ネットワークには2つの優位点があると思います。1つ目は、お互いに学び合い、戦略を知ることができる点です。そうした戦略に基づいて市場を生み出し、持続可能な好ましい未来にデザイナーを活かしていくことが可能になります。2つ目は、都市を越えた友情を育みその信頼に基づいて市場を作っていくことによって、協力できるようになるということです。今回のワークショップやフォーラムでは、その点で大きな可能性が示されたと思います。

深圳(王 小明)

深圳市は、クリエイティビティ、そしてデザインを大切に思っており、そういった意味からも、ネットワークへ積極的に参加していきたいと考えています。都市というのは製造業に特化するだけでは生き残ってはいけません。ですが、クリエイティビティがあれば、私たちの生活をより良くデザインし、将来を作っていくことができます。ですから、多くの都市がデザインコミュニティや、ユネスコのクリエイティブシティに参加してほしいと思います。

神戸(井上隆文)

ネットワークの意義は2つあると思います。1つは共通の目標を持って、お互いレベルアップを図っていくということです。ある程度現実的な目標を持つのか、もう少し高いところに持つのか、色々な目標の考え方があると思いますが、そこへ向かって一緒に進んでいくというところが重要だと思います。もう1つは、各都市で色々な課題を抱えていますが、その課題に対して、提案を得たり、状況を学んだり、他の都市の人材、あるいは知恵を借りて解決したりといったことが可能になることだと思います。神戸市では、これから作るデザインセンターに、他の都市のノウハウや経験を活かしていきたいと思っております。

名古屋(伊藤恭行)

人と人との関係・人脈がまさにネットワークで、今回顔を合わせたことで、あるアイデアがわいたとき、具体的に相談して実現できる可能性が出てきます。お互いに知り合うことがまず大事だと思います。また、6つの都市が足並みを揃えて何かをするのは難しいかもしれませんが、プロモーションを一緒にしていくことは可能だと思います。そういった機会を作ることが、ネットワークを展開していく上で大事なことだと思います。

ユネスコ(ドヨン・リー)

私たちはこのネットワークを始めるにあたって、都市の差異が1つの障壁になるかもしれないと思いました。しかし、実際には壁ではなくて大きな強みだったわけです。この差異、多様性は維持していかなければなりません。その上で、ネットワークを活用していくわけです。各都市のプロジェクトは非常に多様でユニークな物ばかりです。このネットワークに参加しようとする姿勢は非常にすばらしいと思いますし、それ自体がこのネットワークを維持する自信につながると思います。参加メンバーは皆、非常にクリエイティブであると思いますが、コンテンツだけではなくて、どのように我々が協力するかということも重要だと思います。

モデレーター

ネットワークというキーワードで結合することによって、各都市の目標へのプロセスの差が明らかになり、その中に内包されている新たなキーワードがまた明らかになってきました。その節々で、若い人が、市民が、あるいはプロフェッショナル・スキルとしてデザインを求めている人たちが、様々な目的意識の元に集うというのが、まさにネットワークです。そして今、それが個人個人の目線でも共有されるような枠組みが期待されているのではないでしょうか。