WDO世界デザイン会議東京2023 公認プログラム

日本の“デザイン都市”のこれからを考えるカンファレンス

カンファレンス 往来|Correspondence

レポート

ユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN)デザイン都市に認定を受ける旭川市、神戸市、名古屋市が連携し、WDO世界デザイン会議東京2023公認プログラムとしてカンファレンスを開催した。 第1部ではシビックプライドをテーマにした基調講演、第2部では異なる立場でデザインに関わる専門家を招いたクロストークを通して、デザイン都市のネットワーク、そして都市間での連携が持つ可能性について参加者と共に考えを深めた。

第1部

基調講演
伊藤香織氏「都市の創造性とシビックプライド」

伊藤香織氏は、これまでに行った472に及ぶ都市の調査から、都市は近年のグローバリゼーション以外に、歴史的にも様々なレベルで関係し合い学びあってきたことを指摘し、都市間ネットワークの起源を説明した。
また、都市において集住することで行われる情報交換、相互刺激が、文化や文明、創造性を育んできたことから、「都市」と「人」との関係についてシビックプライドを軸にして説明が行われた。
シビックプライドは、より「自治」に近い理念であるとした上で、『シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする』でも述べられる、市民をアクションに巻き込む接点のデザイン、シビックプライドを醸成するコミュニケーションこそ重要であると強調。具体的なシビックプライド醸成の事例として、「まちを知る」という視点から、毎年2日間、ロンドンが誇る歴史や革新的な建築を通してまちを知る「オープンハウスロンドン」(UK)、「まちで自己実現する」視点から2017年の欧州文化首都オーフス(デンマーク)の事例として、観光客や外部からの滞在者を案内したりイベントを運営するボランティア組織「Re-thinkers」による主体的な活動、アイデンティティ、コミュニティ、動機付けの三要素を生かしたプログラムデザインが紹介された。また、「まちの文化を体現する」視点から静岡県三島市において市民主導の取り組みが発端となり、市民・企業・まちづくり団体・行政が役割分担し、協働して実践している「街中がせせらぎ事業」について豊富な写真を用いた紹介があった。
「まち」と「私」の関係をみんなで共有すること、つまり一緒に見たり触ったり経験したりするコミュニケーションが重要であり、現在も未来も、まちを体現するのは市民(わたしたち)であると結んだ。

第2部

クロストーク

徳山弘基氏は「シチズンセンタードデザイン」の可能性について、多様な市民が社会を構成する一員としての責任を意識し、行政や専門家とともに創意や工夫に満ちた活動を行い、課題を解決していくデザインプロセスであるとし、その可能性を東日本大震災後の東北の公共建築における市民共創事例を通して提示した。
宮城県気仙沼市内湾地区の防波堤計画の中で開設された商業施設ないわんの迎(ムカエル)・結(ユワエル)・拓(ヒラケル)・創(ウマレル)の4施設においては、多様な専門家、市民団体、行政、市民の意見交換の場が生み出された。
宮城県女川町では駅前のシンボル空間を開設するにあたって、100人の市民と町長が専門家によるコーディネートによって話し合い、オープンな計画と意思決定が行われた。
福島県須賀川市では図書館を含む市民交流センター設立にあたり、700名もの市民が参加したワークショップを行い、同時に先進事例の官民合同視察を経たことによって、開館後も市民参加による運営が継続されている。
現代社会においては、トップダウン型のものづくりは限界にきており、型にはまったハコモノから自然発生的に住民が必要とするコモンズ(共有資産)を生み出していくことの重要性が説かれた。

水内智英氏は、創造都市はいかにオルタナティブな世界観をデザインできるかをテーマに話題提供を行った。ユネスコが2012年から探求と開発をスタートし、提唱している未来を描く能力、フューチャーズ・リテラシー(futures literacy)を身につけることによって想像力を高め、変化に直面したときの回復力や発明する能力を高めてくれると紹介。現代の複雑な課題群に、デザインとは何か、という基本軸を再定義し、システムをシフトするデザインのために多様なアプローチや方法があることを認識していくことが重要であることなどを、様々な事例とともに紹介した。最後に持続可能な世界を構築し、現在の延長線上とは異なる「世界観」を創造するために、創造都市にその源泉を見出すことはできないか、世界の創造都市が織りなすネットワークは具体的な実践を伴う新たな「世界観」の獲得につながるのではないかと問いかけた。

矢島進二氏は、2023年を中心としたグッドデザイン受賞作品からシビックプライドに焦点を当てた以下の事例を紹介した。

徳島県神山町「神山まるごと高専」:創造的過疎をテーマに、20年以上地元のNPOが活動を続ける徳島県神山町の新たな取り組みとして実施された「まるごと高専」は、全寮制の高等専門学校自体を情報センターとし、学生たちが集まることで、まちの新たな担い手を育成し、全国で活動できるような人材を生み出す一つのインフラ装置となっている。また高く評価された点として、高専の開校以前から行ってきた文化事業やクリエイターの移住政策によって育まれた高い情報発信力が挙げられた。

栃木県宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT」:市民が盛り上がる機運づくりの好例。鉄道だけではなくサインを含めて、まちの景観を変えるという巧みなビジュアルを表現をしており、シビックプライドの醸成につながっているデザインの事例である。

北海道北広島市「エスコンフィールドHOKKAIDO」:札幌に隣接する都市が自分たちの誇りとして野球場を軸としたまちづくりを歓迎し、主体的に関わっている。試合がない日にも観光地として世界中から球場を訪れる人が増えている。結果として300万人を超える来場者があり、JRの駅が新しくなり、大学誘致にも成功し、更に大きな街となる予定。

兵庫県神戸市「東遊園地」:由緒ある東遊園地のリニューアルにあたって、社会実験を含めたワークショプや様々なイベントを行い、新しい公園ができるという機運づくりを行った。地元関係者とのコミュニケーションによって居心地の良い空間、都市の新しい「場所」として、日常的に市民に親しまれるプレイスメイキングを実践した。

福井県鯖江市・越前市・越前町「RENEW」:デザインを「観光」として捉えた取り組み。様々なイベントを通して、地元の人たちとともに新たなクリエイションを生み出す役割を共有している。市民や地元の職人や事業者を巻き込んで観光資源に結びつけてきた10年の積み重ねであり、新しいまちづくりの成功事例といえる。

続いて伊藤香織氏を交えてクロストークを行った。
徳山氏には震災復興を機に進んだ市民主導のデザインに対して、平時にどのように市民を巻き込むのか?という問いがあり、氏は生活の実感の中から生まれてくるある種「わがまま」なデザイン的リクエストや要望が、市民を巻き込むきっかけとなる、とした。水内氏にはネットワーク化を通して都市が均質化する状況に対して、都市の個性を育むためのバランスについて問いかけがあり、氏は他の都市と交流することで、魅力的な事例がたくさん出てくる。それらに自分たちの伝統や文化や世界観を取り込みながら伝え、ハイブリッドさせていくことが、新たな創造につながる、との答えがあった。
矢島氏には利用者である市民が提案者としてデザインに関わるという近年の傾向について伊藤氏から質問があり、パブリックとプライベートの中間にある「セミパブリック」がポイントだと話した。市民性の高さは今後ますます日本では重要になっていくと思うが、そこにデザイナー、クリエイターも関わり、新しい社会的役割が明確にあるという形にしていく。その質問を起点にシビックプライドにおいてデザイナーが果たす役割や、行政と市民のデザインに対する関係と相互作用、都市の独自性を育む方法について登壇者間で意見が交わされた。また創造都市ネットワークについて、国同士の交流だけではうまくいかず、スピードも含め、都市間同士のようなコンパクトな交流が基本的な外交のスタンスとなると考えられるため、これからもっと密な形でのやり取り、ダイレクトな形の関係性を持つ創造都市という枠組みは、今後も可能性を持っており、日本でももっと活用すべきだと意見が述べられた。結びとして、主催者を代表して名古屋市の江坂恵里子から、デザインが市民に対して果たすべき役割を考えることの重要性、行政や市民がデザインに関する意識を変える契機になる都市間ネットワークの拡充(更なるデザイン都市加盟への期待)が述べられた。

最後に2021-2023WDO会長のデビッド・クスマ氏がWDOにおける都市に関するプロジェクトを端的に紹介。国家間の国際競争力が問われる中で、国境を超えた都市間、民間、市民レベルでの活動や協働を通した「より良き世界のためのデザイン」への期待を述べた。

クロストークで展開された議論と洞察に満ちた視点は、デザイン都市の可能性や展望を強調するだけでなく、シビックプライド醸成に向けた行動へのきっかけとなるものであった。
このカンファレンスを機に、デザイン都市として認定されることや、デザイン都市に住むことがシビックプライドではなく、都市を体現する市民として、誰もが共有し、実践し得る「デザイン」のあり方を広く伝えるという課題が、旭川市、神戸市、名古屋市に改めて課せられた。そのためにも「ユネスコ・デザイン都市推進委員会」は、国内デザイン都市間の交流や連携のプラットフォームとしての役割を担い、市民の創造的活動に刺激を与える積極的な協働を継続していく。