2012年3月11日
「なごやをもっと好きになる。シビックプライドを考える。」
住む人が名古屋に誇りと愛着を持ち、地域や地域産業を活性化させる方法を考えました。
19世紀のイギリスの都市で重要視された「シビックプライド(=市民が都市に対してもつ自負と愛着)」の考え方は、日本語の「郷土愛」とは少し違う ニュアンスをもちます。自分はこの都市を構成する一員であるということ、この都市をより良い場所にするために関わってみると都市はもっと楽しくなります。 「当事者」としての自覚を持って、人と人、人と都市のコミュニケーションを考えました。
後半には会場からのご意見も交えてトークセッションを行いました。
伊藤香織
東京理科大学准教授
「シビックプライド」とは、都市に対する誇りや愛着であり、都市をもっとよりよい場所にするために、自分自身が関わっているという当事者意識に基づく自負心です。「人」が“まち”の資産となる現代社会において「シビックプライド」を醸成するには、デザイン面でもいくつかのポイントがあります。
まずは、市民がまちづくりに関わり、それが公共のデザインに表れていることです。そうすることで、”まち”への愛着と誇りが育まれます。2つ目は、”まち”を知り、好きになるということです。市民が与えられたものを享受するだけではなく、学びながら関わっていける場を提供することが重要です。3つ目は、”まち”の共犯者になるということです。”まち”の一員であることを表現したくなるようなツールが、それを助けます。そして最後に、”まち”から愛されるということです。市民や来訪者をおおらかに受け入れる公共空間によって、”まち”から愛されているという感覚を生み出し、この”まち”は自分たちのものだと実感できるようになります。
市民の関心を引き立てるためのコミュニケーションポイントは、建築、景観、広告など多岐にわたります。”まち”のメッセージを伝える最も有効な方法を組み合わせ、場所にあった「シビックプライド」の届け方をすることが大切です。
紫牟田伸子
プロジェクトエディター/デザインプロデューサー
日本のこれからの豊かさや、どの都市を選び、どう維持すべきかを考えたとき、都市の個性を際立たせ、そこに経済を発展させる「シビックプライド」が重要となってきます。”まち”のポテンシャルが感じられなければ、人々はそこを選んでくれません。「シビックプライド」を持つということは、「ここでつくる」「ここで生きる」ことへの責任と自負を持つということでもあります。
都市とは、内なるコミュニティであると同時に、外にも開かれています。流動的な現代日本の個人をベースとしたコミュニティのポテンシャルを高めるには、従来の閉鎖的な「郷土愛」を捉え直して「まちの一員」であることを市民が意識する必要があります。そして、「ここならでは」の伝統や慣習だけではなく、時代や経済に対応した多様な魅力を、地域内外へ「デリバリー」して知ってもらうことが重要です。
適切なデザインマネジメントが行われることで、外へ出た評判が、ブーメランのようにスタート地点よりも良い場所へ戻って来てくれます。そしてそれは、地域の刺激となり、市民の自覚を促して、自分たちの地域を客観的に見ることで、発展にもつながります。人が”まち”を作り、また”まち”も人を作るのです。
鈴木功
タイププロジェクト株式会社代表・タイプデザイナー/愛知県立芸術大学非常勤講師
従来のフォントは、歴史性を強く反映したものが多いと言われます。では、そこに風土や地域性を反映させることは可能だろうか?という着想から、「都市フォント」の構想が生まれ、「金シャチフォント」が完成しました。同時期に行われた名古屋デザインウィークの中で、「その文字は、あの人よりも名古屋らしい」をキャッチコピーに発表され、「名古屋弁かるた」や「名古屋手羽先カレー」など、地域性を前面に打ち出した商品などに採用されています。今後の展開としては、文字ならではの特性を活かして、スケール・分野・メディアを横断し、ムーバブル・ウェアラブル・サスティナブルな形でコミュニケーションポイントをつないでいきたいと考えています。
名古屋は強いイメージ喚起力、アイコンを持っている数少ない都市の一つです。クオリティは落とさず、風景・ことば・味といった地域固有の文化資源を分かりやすいものに置き換えながら、戦略的に都市のアイデンティティを形成することで、「シビックプライド」の醸成につながっていくのではないでしょうか。それによって、歴史や文化を育み、記憶の継承で繋がっていく事ができるのだと思います。
伊藤香織|紫牟田伸子|鈴木功
進行:江坂恵里子
江坂:「シビックプライド」を考えるときに、当事者意識、自発性、ひらめきといった重要なキーワードがいくつかありますね。
鈴木:自発性がなくては「シビックプライド」というのはほとんど不可能なのではないかと思います。東京から名古屋に帰ったとき、生まれ故郷の名古屋に対する当事者としての想いと、自分が実際にやっているデザインとのギャップを見返して、自分は一体何なのだろうと考えたことがあります。「シビックプライド」という概念は、金シャチフォントについて悩んでいたときにひらめきを与えてくれました。
江坂:一方で、「どのまちを選ぶか?」という新しい視点もありますね。
紫牟田:「ここに住みたい」といったような、印象や感銘を受けたとき、人は自分との関係を常に考えていると思います。どんな活動も、その”まち”が好きじゃないとできません。そこに自分のアイデンティティを置くという感覚は、これから都市を選んでいく時に重要だと思います。
伊藤:一回しか行っていないのに、ものすごく好きという場所や、逆に何度行っても気持ちが合わない場所があります。「プライド」は結局一人一人が持つものです。地域の素材を自分の「プライド」として感じ、自発的に楽しんで活動できなければ、”まち”の良さが自分の「プライド」にはならないと思います。
江坂:地域の素材を「デリバリー」するという考え方について、補足をお願いします。
紫牟田:建物が完成し、「竣工」と言ったときに、私たちは建物が完成したと思いがちですが、その言葉には、英語で「デリバリー」と表現される、建物が将来どう運営されるのかという展望が含まれていません。地域のコミュニケーションポイントが、どのように「デリバリー」されていくのかを意識することが大切です。
伊藤:「もの」を単につくるのではなく、「こと」をつくっていかなければいけません。そのプロセスを考えないと、自分たちのものだと感じられない“まち”になってしまう恐れがあります。これからも、その関係性や、どうやって「こと」にしていくかという点に着目していきたいと考えています。
鈴木:「デリバリー」=「期待を運ぶ」ということは、すてきなことだと思います。東京で活躍している若いデザイナーに、「もの」を送り届けた後の「関わり続けるデザイン」への欲求をここ数年強く感じています。
江坂:クリエイティブなまちづくりをしていくということはサスティナブルな考えでなければたちゆかなくなるということですね。名古屋もデザイン都市として、「もの」のデザインだけではなく、地域の素材を「デリバリー」することによって、都市と人々を豊かにしていく場所になっていきたいです。
また、名古屋を面白くすることで、訪れた人々にアンバサダーとなっていただき、その魅力を発信していただきたいです。
本日はありがとうございました。
日時 | 2012年3月10日(土) 14:00 - 17:00 |
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会場 | デザインセンタービル6Fプレゼンテーションルーム |
主催 | クリエイティブ・デザインシティなごや推進事業実行委員会 [名古屋市|株式会社国際デザインセンター|名古屋商工会議所|中部デザイン団体協議会] |
参加者:46名 | |
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